巻T:Synfonia Fantasque op.1


プレリュード

あかねさす紫の花野辺に咲く いざ手折りてむ 君し恋ひゆれば

秋の陽の照れる並木の色をしのひ 語りあかさん画面へだてて

冬の陽のたまる窓辺に君とゐて 心もなぎぬ つかのまの時

霞立つ春日の野辺に咲く花に寄り添ふ草の風にそよぎて  


ナハトムジーク――夜想四首

街の灯にけぶる夜霧のためいきの 出づる思ひの溶けてや消えぬ

面影をしのぶ一夜のさかづきに 酔ひてかたしくころもさびしき

酔いどれて 夜の静寂(しじま)を経めぐりて 君にえあへぬ身を焦がしつつ

朝ぼらけ せぜのあじろ木見ゆれどもたへぬ思ひぞ 宇治のかは霧


スケルツォ――メル恋三首

小夜更けて メール受信の音もなし 盥に落つる水漏れ一つ
日々なべてかはせし君のことのはを 拾ひながめて炬燵にぞ寝る

夢にあひ 夢にわかれし なが姿 受信画像の枠の中にて


フィナーレ――恋のロンド

ただひとたびあひし君ゆゑはなれゐればこひこがれけり あふすべなきに

帰る道のてのひらの中に 汝が心 待ち焦がれてあり 寒風ふけども

ことのはで心を結ぶ 掌の中のぬくもり 携帯電話

穂にいづる心をしめ野の一もとを 遠くのぞみてけふも通ひつ